保険の解除には「保険契約者による解除」と「保険者(保険会社)による解除」の2つがあります。保険を解約するといえば、前者の「保険契約者による解除」のことを指します。
ここでは、後者の「保険者(保険会社)による解除」である、いわゆる解除について説明します。
告知義務違反による解除
先ほど少し触れた告知義務違反による解除について定められた保険法第55条です。
第五十五条 保険者は、保険契約者又は被保険者が、告知事項について、故意又は重大な過失により事実の告知をせず、又は不実の告知をしたときは、生命保険契約を解除することができる。
2 保険者は、前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、生命保険契約を解除することができない。
一 生命保険契約の締結の時において、保険者が前項の事実を知り、又は過失によって知らなかったとき。
二 保険媒介者が、保険契約者又は被保険者が前項の事実の告知をすることを妨げたとき。
三 保険媒介者が、保険契約者又は被保険者に対し、前項の事実の告知をせず、又は不実の告知をすることを勧めたとき。
3 前項第二号及び第三号の規定は、当該各号に規定する保険媒介者の行為がなかったとしても保険契約者又は被保険者が第一項の事実の告知をせず、又は不実の告知をしたと認められる場合には、適用しない。
4 第一項の規定による解除権は、保険者が同項の規定による解除の原因があることを知った時から一箇月間行使しないときは、消滅する。生命保険契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。引用元:電子政府の総合窓口-保険法(平成二十年法律第五十六号)
簡単にまとめると保険者(保険会社)が求める告知事項に対して故意に告知しなかったり、嘘の告知をした場合には保険契約を解除します。といった内容です。
また、次のような場合には告知義務違反として解除されることはありません。
- 保険契約時の告知書に不備があったなどの理由により、告知できていなかった場合
- 保険募集人が「黙っていればバレませんよ」というように事実の告知をしないことや事実と異なる告知を勧められた場合
- 保険会社が告知義務違反で解除できることを知った日から1ヶ月間解除しなかった場合
- 保険契約をした日から5年を超えて保険契約が継続した場合
危険増加による解除
危険増加による解除について定められた保険法第56条です。
第五十六条 生命保険契約の締結後に危険増加(告知事項についての危険が高くなり、生命保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいう。以下この条及び第五十九条第二項第二号において同じ。)が生じた場合において、保険料を当該危険増加に対応した額に変更するとしたならば当該生命保険契約を継続することができるときであっても、保険者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、当該生命保険契約を解除することができる。
一 当該危険増加に係る告知事項について、その内容に変更が生じたときは保険契約者又は被保険者が保険者に遅滞なくその旨の通知をすべき旨が当該生命保険契約で定められていること。
二 保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失により遅滞なく前号の通知をしなかったこと。
2 前条第四項の規定は、前項の規定による解除権について準用する。この場合において、同条第四項中「生命保険契約の締結の時」とあるのは、「次条第一項に規定する危険増加が生じた時」と読み替えるものとする。引用元:電子政府の総合窓口-保険法(平成二十年法律第五十六号)
病気になったら危険だから解除ってこと?それだと…
この場合の危険増加とは、例えば、
事務職から高所作業員になったとかドライバーになったとか事故が起きる恐れが高い職業へ転職された場合を指しますね。
「危険増加による解除」といった直接的な形では、あまり約款に記載されていることはありませんが、告知内容に変更があったときに保険者へ通知することが義務として記載されています。
また、告知内容の変更により危険増加と判断されても即解除というわけではなく、保険料の増加対応により保険を継続することができます。
重大事由による解除
重大事由による解除について定められた保険法第57条です。
第五十七条 保険者は、次に掲げる事由がある場合には、生命保険契約(第一号の場合にあっては、死亡保険契約に限る。)を解除することができる。
一 保険契約者又は保険金受取人が、保険者に保険給付を行わせることを目的として故意に被保険者を死亡させ、又は死亡させようとしたこと。
二 保険金受取人が、当該生命保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。
三 前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由引用元:電子政府の総合窓口-保険法(平成二十年法律第五十六号)
詐欺による取消しと不法取得目的による無効
保険契約の約款をみると必ずといっていいほど、記載されている項目が「詐欺による取消し」と「不法取得目的による無効」です。この項目にあたる行為を行った場合には、保険金、解約返戻金等の保険料返還はありません。
保険法においても次のように定められています。
第六十四条 保険者は、次に掲げる場合には、保険料を返還する義務を負わない。
一 保険契約者、被保険者又は保険金受取人の詐欺又は強迫を理由として生命保険契約に係る意思表示を取り消した場合
二 死亡保険契約が第三十九条第一項の規定により無効とされる場合。ただし、保険者が保険事故の発生を知って当該死亡保険契約の申込み又はその承諾をしたときは、この限りでない。引用元:電子政府の総合窓口-保険法(平成二十年法律第五十六号)
保険契約の約款を見ると告知義務違反、重大事由それぞれの解除に関する項目では、解約返戻金について触れていなかったり、返戻金が支払われると記載されていることがありますが、実際には、告知義務違反、重大事由いずれの場合においても詐欺と判断されれば、解約返戻金の返還はないということになります。
また、告知義務違反において保険契約が5年以上経過していれば、解除できないことになっていますが、告知義務違反自体が詐欺行為にあたります。詐欺(重大事由による解除を含む)では、時効はありませんので、保険契約は解除され保険料の返還はありません。
保険契約解除早わかり
- 保険の解除には「保険契約者による解除」と「保険者(保険会社)による解除」がある
⇒保険を解約すると言えば「保険契約者による解除」を指す - 保険者による解除は3種類
⇒告知義務違反による解除
⇒危険増加による解除
⇒重大事由による解除 - 保険者による解除はいずれも詐欺に該当する恐れがある
⇒詐欺となれば、解約返戻金等の保険料変換はない
解除に関する事柄を保険法を交えながら書きましたが、法律というのは読んでいて難しいというか、とてもわかりづらい書き方をされているので読む気がなくなりますね。約款の方も少しだけ砕けた書き方がされていますが、なかなか読む気が起きないものです。
どうしても約款って読む気になれないというときは、「告知のときに嘘はつかない、やましいことはしない」これだけは気を付けておきましょう。当然のことながら、何も悪いことをしていなければ解除されることはありませんからね。